【歯科院長向け】医療法人にしない5つの理由|個人経営のメリット解説

多くの歯科医師があえて個人歯科医院を選ぶ理由は、経営における意思決定の自由度にあります。

この記事では、歯科医院が医療法人化を選択しない具体的な理由、特に利益の使いみちの制限や、煩雑な事務手続き、社会保険料などのコスト増加といったデメリットについて詳しく解説します。

あいこ

法人化のメリットとデメリット、結局うちのクリニックにはどっちが合っているのでしょうか?

ふじた

この記事を読めば、先生のクリニックにとって最適な選択をするための判断材料が見つかります

目次

個人歯科医院として歩む選択とその背景

クリニックの前で空を見上げる白衣の歯科医師男性

多くの歯科医師が、医療法人化という選択肢がある中で、あえて個人歯科医院としての道を歩むことを選んでいます。

その背景には、日々の診療への集中や経営における自由度など、個人経営ならではの 重要なメリット が存在します。

このセクションでは、なぜ個人歯科医院を選択するのか、その具体的な理由として「日々の診療と患者への貢献への集中」「経営における意思決定のスピードと自由度」「成長フェーズにおける資金計画の柔軟性」という3つの観点から掘り下げていきます。

これらの要素は、特にこれから医院を成長させていきたい、あるいは現在の規模で質の高い医療を提供し続けたいと考える歯科医師にとって、非常に魅力的な点となるのです。

日々の診療と患者への貢献への集中

個人歯科医院を選択する大きな理由の一つは、院長自身が 日々の診療と患者さんへの貢献に最大限集中できる 環境を維持したいという思いです。

医療法人化すると、診療以外にも様々な事務手続きや会議への対応が必要となり、本来最も時間を割きたいはずの臨床業務に影響が出る可能性があります。

例えば、医療法人になると以下のような管理業務が新たに発生します。

これらは個人事業主にはない負担であり、 診療に専念したい 歯科医師にとっては、法人化をためらう要因となります。

あいこ

日々の診療だけでも忙しいのに、これ以上事務作業が増えるのは避けたいです…

ふじた

院長先生のお気持ち、よく分かります。個人経営なら、煩雑な法人運営業務に時間を取られず、目の前の患者さんの治療に集中できます

臨床に集中できる環境は、結果的に患者さんへのより質の高い医療提供につながり、医院の評判や信頼を高める重要な要素となります。

経営における意思決定のスピードと自由度

個人歯科医院の院長は、経営に関する 最終決定権を自身で持つ ことができます。

これにより、新しい治療法の導入や設備の更新、スタッフの採用など、医院運営に関わる様々な意思決定を迅速かつ自由に行える点が大きな魅力です。

一方で、医療法人になると、重要事項の決定には理事会や社員総会での承認が必要となる場合があります。

このプロセスは、スピード感が求められる 経営判断においては足かせとなる可能性があります。

例えば、緊急性の高い設備投資や、競合医院に対抗するための戦略変更などを思い立った際に、すぐに行動に移せない状況も考えられます。

あいこ

最新の機器を導入したいと思った時、すぐに判断して進められないのは少し困るかもしれないですね…

ふじた

そうですね。個人経営であれば、院長先生の判断一つでスピーディーに物事を進められるメリットがあります

変化の早い医療業界において、経営判断のスピードと自由度は、医院の競争力を維持し、成長を加速させる上で非常に重要な要素です。

成長フェーズにおける資金計画の柔軟性

特に開業して間もない時期や、これから医院規模を拡大していきたいと考えている 成長フェーズにおいては、資金計画の柔軟性 が極めて重要になります。

個人歯科医院の場合、事業で得た利益の使い道は比較的自由であり、必要なタイミングで設備投資や運転資金に充当することが可能です。

しかし、医療法人(特に出資持分のない医療法人)は非営利性が求められ、利益を配当することができません

余剰金は原則として、クリニックの設備充実や研究研修費用、あるいは内部留保に充てることになります。

急な資金需要が発生した場合や、戦略的に大きな投資を行いたいと考えた際に、個人経営の方が柔軟に対応しやすい側面があります。

あいこ

これから分院展開も考えたいけれど、資金の使い道が制限されるのは少し心配ですね…

ふじた

成長段階では、予期せぬ出費や新たな投資機会も多いですから、資金を柔軟に活用できることは大きなアドバンテージになりますね

将来的な節税メリットや事業承継を見据えれば法人化も有効ですが、目の前の成長戦略を実行するためには、個人経営の資金的な自由度が有利に働く場面も多いと言えるでしょう。

医療法人化を見送る歯科医師が重視する5つのポイント

医療機関で白衣の歯科医師女性が笑顔で書類を見る

医療法人化を検討する際、多くの歯科医師、特に私(山田)のような開業して数年の院長は、様々な側面から慎重に判断しています。

単に税制上のメリットだけでなく、日々の運営に直結するポイントを見極めることが、医院の将来にとって経営の自由度を保つうえで重要です。

具体的には、利益の使いみちの自由度、日常業務に加わる事務手続きの負担感、都道府県による指導強化への懸念、スタッフの社会保険加入に伴うコスト、そして経営権が分散するリスクという5つのポイントが、法人化を見送る主な理由として挙げられます。

これらの点を総合的に評価し、ご自身の医院にとって最適な選択をすることが重要です。

利益の使いみち 自由度の高い個人経営

医療法人は、その性質上「非営利性」が求められるため、利益が出ても役員や出資者に配当することが法律で禁止されています

これは医療法第54条で定められている重要なルールです。

一方、個人経営の歯科医院であれば、売上から経費を差し引いた利益(事業所得)の使いみちは、原則として院長の自由です。

例えば、最新の歯科用CTスキャンを導入したいと考えた場合、個人であれば自己資金や借入の判断を迅速に行い、最適なタイミングで約1,000万円~2,000万円程度の設備投資を実行できます。

医療法人では、設備投資計画などを事前に策定し、承認を得るプロセスが必要になる場合があります。

あいこ

急な出費があっても個人なら対応しやすいですか?

ふじた

はい、個人経営は資金計画の柔軟性が高い点がメリットです

このように、資金使途に関する自由度の高さは、特に設備投資が経営に大きく影響する歯科医院にとって、個人経営を続ける大きな理由の一つとなります。

日常業務に加わる事務手続きの負担感

医療法人になると、個人経営の時にはなかった定期的かつ複雑な事務手続きが多数発生します。

これらは法律で定められた義務であり、怠ることはできません。

具体的には、事業年度終了後3ヶ月以内に行う必要がある決算届の提出、毎年必要な資産総額の登記、監事による監査報告書の作成、年に最低1回(通常は2回程度)開催が求められる社員総会や理事会の運営と議事録作成、そして2年に1度の役員変更登記などが挙げられます。

これらの手続きは、専門的な知識を要するものも多く、税理士や行政書士に依頼する場合でも、そのための費用と時間が発生します。

あいこ

診療だけでも忙しいのに、事務作業が増えるのは困ります…

ふじた

その負担感が、法人化を見送る大きな理由の一つです

日々の診療やスタッフマネジメントに加えて、これらの事務負担が増えることは、診療に集中したいと考える院長にとって大きなデメリットと感じられるでしょう。

都道府県による指導強化と運営への影響

医療法人化を選択すると、個人経営の歯科医院と比較して、都道府県知事による指導監督体制が強化されることになります。

これは医療法に基づくもので、法人の適正な運営を確保するための措置です。

具体的には、定期的な立入検査(監査)の頻度が増えたり、提出を求められる書類が多くなったりする可能性があります。

これにより、個人経営時代よりも経営の自由度が低下すると感じる院長も少なくありません。

例えば、診療所の移転や分院の開設といった重要な経営判断においても、都道府県への届出や認可が必要となり、手続きが複雑化します。

あいこ

外部からのチェックが厳しくなるのは少し心配です…

ふじた

経営方針に制限が出る可能性も考慮する必要があります

独自の理念に基づいた自由なクリニック運営を重視したい場合、このような外部からの監督強化は、医療法人化をためらう一因となり得ます。

スタッフの社会保険加入に伴うコスト増

医療法人になると、院長や常勤スタッフは健康保険(協会けんぽ等)と厚生年金保険への加入が法律で義務付けられます

個人経営の場合、常勤従業員が5人未満であれば社会保険への加入は任意です。

スタッフにとっては福利厚生が手厚くなるという大きなメリットがありますが、医院経営の観点からは社会保険料の負担増という側面があります。

保険料は医院と従業員で半分ずつ負担(労使折半)しますが、医院側の負担分だけでも給与総額のおおよそ15%程度にのぼります。

これは、特に多くのスタッフを雇用している、あるいはこれから雇用を増やそうと考えている医院にとっては、決して小さくないコスト増となります。

あいこ

スタッフのためには良いけど、コスト増は経営に響きますね

ふじた

特に歯科衛生士の確保が重要な歯科医院では、慎重な判断が必要です

特に、採用競争が激しい歯科衛生士の確保・定着を考えると、社会保険完備は魅力の一つですが、それに伴う人件費の増加は、医療法人化の判断において重要な検討ポイントとなります。

経営権の分散 リスクと安定性の比較

個人経営の歯科医院では、医院の所有権も経営権も院長個人に帰属しており、経営に関する最終的な意思決定はすべて院長自身が行います。

しかし、医療法人になると「社員」が存在し、社員が集まる社員総会が法人の最高意思決定機関となります。

社員は通常、出資者や理事などで構成されますが、医療法上、社員総会の過半数の賛成があれば、理事長(院長)を解任することも理論上は可能です。

もちろん、定款で社員の要件を厳しく定めたり、信頼できる人を社員に選んだりすることでリスクは軽減できますが、個人経営のように経営権が院長一人に集中している状態とは異なります。

あいこ

自分の医院なのに、経営権が絶対ではないのですか?

ふじた

はい、個人経営と異なり、経営権が分散するリスクがあります

自分の歯科医院に対する絶対的なコントロールを維持したいと考える院長にとって、この経営権の分散というリスクは、医療法人化を躊躇させる要因の一つとなりえます。

歯科医院経営と医療法人化の将来的な選択肢

研究室で白衣の歯科医師男性が設計図を手に持ち未来的な都市の模型を見ている

将来を見据えたとき、医療法人化は重要な選択肢です。

しかし、どのタイミングで、どのような目的のために法人化を検討するのかが非常に重要になります。

このセクションでは、法人化のメリットである税負担軽減効果事業承継・多院展開への活用、そして個人経営を継続する場合の戦略について、私のクリニックの状況も踏まえながら考えていきます。

医院の成長段階や将来のビジョンに合わせて、最適な経営形態を選択することが、持続的な発展につながります。

税負担軽減効果 法人化のタイミング検討

医療法人化の大きなメリットとしてよく挙げられるのが、税負担の軽減効果です。

個人の所得税は累進課税で所得が増えるほど税率が高くなりますが、法人税率は一定の範囲で固定されています。

私のクリニックのように年間の所得(利益)が約800万円を超えてくると、法人化した方が税率面で有利になるケースが出てきます。

具体的には、個人の所得税・住民税の最高税率は合わせて55%に達するのに対し、法人税の実効税率は概ね30%前後です。

あいこ

そろそろ所得も増えてきたし、税金対策も考えたほうがいいでしょうか?

ふじた

所得が一定額を超え、今後も安定した収益が見込めるなら、法人化による節税は大きなメリットです

ただし、法人化には設立費用や維持コストもかかるため、節税効果とこれらのコストを比較検討し、最適なタイミングを見極める必要があります。

税理士などの専門家と相談することが不可欠です。

事業承継や多院展開を視野に入れた場合の法人活用

将来的に医院を子供に継がせたい、あるいは複数のクリニックを展開したいと考えている場合、医療法人化は非常に有効な手段となります。

個人経営の場合、院長個人に何かあれば医院の存続が難しくなるリスクがありますが、医療法人は永続的な組織として事業を引き継ぎやすくなります。

分院を開設する場合も、個人では原則1箇所しか管理者になれませんが、法人であれば複数のクリニックを運営可能です。

将来の選択肢を広げるという意味で、法人化のメリットは大きいと感じています。

個人経営を継続する場合の成長戦略とリスク管理

もちろん、医療法人化しないという選択肢もあります。

その場合、個人経営のメリットを活かしつつ、どのように成長し、リスクに備えるかが重要になります。

個人経営の強みは、意思決定のスピードと経営の自由度の高さです。

私のクリニックのように、まだ成長段階にある医院では、このスピード感が重要だと感じています。

例えば、新しい治療法を導入したり、患者さん向けのキャンペーンを企画したりする際に、迅速に対応できます。

あいこ

法人化の手間を考えると、今のまま自由にやっていきたい気持ちも強いです…

ふじた

個人経営でも、計画的な設備投資や人材育成、マーケティング戦略を実行すれば、十分に成長は可能です

ただし、個人経営のリスクとして、院長自身に万が一のことがあった場合の事業継続の問題や、所得増加に伴う税負担の増加があります。

これらのリスクに備えるために、生命保険への加入や計画的な資産形成、税理士と連携した税務管理などが不可欠です。

よくある質問(FAQ)

個人経営のままでも、将来的に医院を誰かに引き継ぐことは可能ですか?

はい、個人経営の歯科医院でも、親族などに事業承継することは可能です。

しかし、医療法人に比べて相続の手続きが複雑になるケースが見られます。

クリニックの承継問題を円滑に進めるためには、早い段階から税理士などの専門家と相談し、事業承継税制の活用なども含めて計画的に準備を進めることが大切です。

歯科医院の院長承継は、計画性が重要になります。

医療法人にしない場合、所得が増えてきた際の税金対策はどうすれば良いでしょうか?

個人事業主の歯科医師として、個人所得税の負担を抑える方法はいくつか考えられます。

まず、青色申告を選択し、要件を満たせば最大65万円の特別控除を受けられます。

さらに、iDeCo(個人型確定拠出年金)や小規模企業共済などを活用して所得控除を増やすこと、経営セーフティ共済(倒産防止共済)への加入なども有効な歯科の節税対策となります。

適切な税金対策を行うことで、法人化しなくても手元に残る資金を増やすことが可能です。

一人だけで経営している歯科医院でも、医療法人になることはできますか?

はい、可能です。

「一人医療法人」という制度があり、常勤の医師または歯科医師が1名または2名のみの診療所でも設立できます。

ただし、医療法人である以上、理事(通常3名以上)や監事(1名以上)を選任し、社員総会や理事会を開催するなど、法人としての運営体制を整える必要はあります。

銀行から融資を受ける場合、個人経営と医療法人では審査に違いが出ますか?

融資の審査基準は金融機関により異なりますが、一般的に違いは存在します。

個人経営の場合は院長個人の信用力が主に評価されますが、医療法人の場合は法人としての事業計画や財務状況、将来性が重視される傾向にあります。

一般的に、法人の方が社会的な信用力は高いと見なされ、借入の審査において有利になる可能性があります。

特に、大規模な設備投資などを検討している場合、歯科医院の信用力向上は法人化のメリットとなり得ます。

歯科医師会への加入と、医療法人化するかどうかは関係がありますか?

歯科医師会への加入と、医療法人であるかどうかには、直接的な関係はありません。

個人経営の歯科医師も、医療法人の歯科医師も、任意で歯科医師会に加入することが可能です。

加入するかどうかは、地域での連携、情報収集、研修機会などを考慮して、それぞれの院長が判断する事項となります。

医療法人になると役員報酬を設定できると聞きましたが、自由に金額を決められるのですか?

医療法人では、院長や理事に対して役員報酬を支払えます。

しかし、金額を完全に自由に決められるわけではありません。

不相当に高額な役員報酬は、税務調査などで否認されるリスクがあります。

また、医療法人の役員報酬は定款または社員総会の決議で定める必要があり、事業年度の途中で自由に変更することは原則としてできません。

配偶者を役員にして給与を支払う場合も、その業務実態に見合った適切な金額設定が求められます。

まとめ

この記事では、多くの歯科医院が医療法人化を選ばない理由を、個人経営のメリットと比較しながら解説しました。

特に重要なのは、個人経営ならではの経営判断の自由度や資金計画の柔軟性と、法人化による運営負担の増加をどう評価するかという点です。

この記事で特に押さえておきたいポイントは以下の通りです。

これらの情報を参考に、先生ご自身のクリニックの現状と将来像に照らし合わせ、最適な経営形態を選択するための判断材料としていただければ幸いです。

必要であれば税理士などの専門家にも相談し、慎重に検討を進めることをお勧めします。

よかったらシェアお願いします!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次