クリニックのウェブサイトを運営する上で、患者さんからの信頼を守るために、意図せず医療広告ガイドラインに違反してしまうリスクは絶対に避けなければなりません。
良かれと思って書いた表現が、気づかないうちに規制に抵触しているケースは非常に多いです。
この記事では、厚生労働省の定める医療広告ガイドラインについて、ウェブサイトですぐに使える具体的なチェックリストを項目別に解説します。
虚偽広告や比較優良広告といった禁止表現から、自由診療で必須の限定解除要件、違反時の罰則まで、これ一本で網羅的に確認できます。
あいこうちのホームページ、違反してないか不安だけど何から確認すれば良いでしょうか…



この記事のチェックリストに沿って、一つひとつ確認していきましょう
- ウェブサイトでよくある医療広告ガイドラインの違反事例9選
- 自由診療の広告で必須となる限定解除の4つの要件
- ビフォーアフター写真や患者の体験談の正しい扱い方
- ガイドラインに違反した場合の具体的な罰則とリスク
医療広告ガイドラインとは?まず押さえるべき基本と対象範囲


医療広告ガイドラインは、患者さんが適切な医療を選択するための重要な情報提供のルールであり、ウェブサイト運営の土台となります。
意図しない違反を避けるため、この章ではガイドラインの基本的な考え方、広告と見なされる要件、規制対象となる媒体の範囲といった、まず押さえておくべき基礎知識を解説します。
なぜ今ウェブサイトの広告表現が問われるのか
きっかけは、平成30年6月1日に施行された医療法改正です。
この改正によって、これまで規制の対象外とされていた医療機関のウェブサイトも広告として扱われることになりました。
以前は自由に表現できた内容であっても、現在はガイドライン違反と判断されるケースが増えています。
事実、ある調査では医療機関のウェブサイトのうち約5割で不適切な表示が見つかったという報告もあり、意図せず違反してしまうリスクは決して低くありません。
患者さんに正しい情報を届け、無用なトラブルを避けるために、自院のウェブサイト表現を定期的に見直すことが不可欠です。



うちのクリニックのホームページも、いつの間にか違反になっていたらどうしよう…



ご安心ください。まずは基本的なルールから一つずつ確認していきましょう
厚生労働省が定める広告の2つの要件-誘引性と特定性
そもそも、どのような情報発信が「広告」に該当するのでしょうか。
厚生労働省は、医療広告を「患者の受診等を誘引する意図(誘引性)」と「医業もしくは歯科医業を提供する者の氏名や病院、診療所の名称が特定できること(特定性)」の2つの要件で定義しています。
つまり、クリニック名が明らかで、患者さんに「受診してほしい」という意図が少しでも含まれていれば、それは広告と見なされます。
ウェブサイトの診療案内やブログはもちろんのこと、院内に掲示するポスターやパンフレットも対象となるため注意が必要です。
| 要件 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 誘引性 | 患者の受診を促す意図がある | キャンペーン告知、「ご予約はこちら」ボタンの設置 |
| 特定性 | 医療機関名がわかる | クリニック名、医師名、住所、電話番号の記載 |
自身のクリニックの情報発信が、この2つの要件を満たすかどうかを客観的に判断することが、ガイドライン遵守の第一歩となります。
規制対象となる媒体の範囲-ウェブサイトやSNSも対象
ガイドラインが規制する対象は、チラシや看板といった旧来の広告媒体に限りません。
現在では、ウェブサイトやSNS、メールマガジンなど、インターネット上のあらゆる情報発信が対象です。
特に見落としがちなのが、Instagramの投稿やX(旧Twitter)での院長個人の発信、YouTube動画などです。
例えば、インフルエンサーに費用を払ってクリニックを紹介してもらう行為も、関係性を明示しなければ2023年10月から景品表示法における「ステルスマーケティング」規制の対象となり、医療広告ガイドラインとあわせて厳しい目が向けられます。



個人のSNSアカウントでの発信も、広告になることがあるのですか?



はい、クリニックの集患につながる内容であれば、広告と見なされる可能性があります
オフラインかオンラインかを問わず、患者さんが目にする可能性のあるすべての媒体が規制の対象になりうると認識しておくことが大切です。
薬機法や景品表示法との関連性と注意点
医療広告を考える上では、医療広告ガイドラインに加えて薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)と景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)との関連性を理解しておく必要があります。
薬機法では、国が承認していない医薬品や医療機器に関する広告が禁止されています。
例えば、国内未承認のインプラント材を「最新の治療」として大々的に宣伝することはできません。
一方で景品表示法では、治療効果や価格について消費者に誤解を与えるような不当な表示(優良誤認表示・有利誤認表示)が禁じられています。
| 法律名 | 主な規制内容 | 具体的な違反例 |
|---|---|---|
| 医療広告ガイドライン | 虚偽・誇大広告、比較優良広告、体験談の禁止 | 「絶対安全な手術」、患者の口コミ掲載 |
| 薬機法 | 未承認医薬品・医療機器の広告禁止 | 国内未承認のホワイトニング剤の宣伝 |
| 景品表示法 | 優良誤認・有利誤認表示の禁止 | 根拠なく「満足度No.1」、治療費の二重価格表示 |
これら3つの規制は互いに関連し合っているため、ウェブサイトの表現をチェックリストで確認する際には、多角的な視点で確認することが求められます。
ウェブサイトで陥りがちな9つの医療広告ガイドライン違反事例


クリニックのウェブサイトは、患者さんにとって重要な情報源です。
しかし、良かれと思って掲載した情報が、意図せず医療広告ガイドラインに違反してしまうケースは後を絶ちません。
特に、患者さんを惹きつけたいという思いが強いほど、禁止されている表現を使いがちになる点には注意が必要です。
ここでは、ウェブサイトで特に見受けられる9つの違反事例を解説します。
ご自身のクリニックのウェブサイトと照らし合わせながら、リスクがないか確認していきましょう。
これらのポイントを理解するだけで、ウェブサイトの健全性を保ち、患者さんからの信頼を高められます。
1. 虚偽広告-「絶対安全」など医学的にありえない表現
虚偽広告とは、事実と異なる内容や、医学的にあり得ない表現を用いて、患者さんに誤解を与える広告のことです。
客観的な事実に基づかない、効果や安全性を保証するような表現は、虚偽広告に該当します。
例えば、「絶対に安全なインプラント治療」や「どんな症状でも100%完治します」といった表現は、医療に絶対はないため虚偽広告となります。
また、「厚生労働省が認可した〇〇専門医」という表現も、専門医資格は学会などが認定するものであり、厚生労働省が直接認可するわけではないため、事実に反する虚偽広告と判断されます。



良かれと思って書いた表現が、虚偽広告になってしまうのでしょうか?



はい、たとえ善意からであっても、医学的な客観的事実に基づかない表現は虚偽広告と見なされます
患者さんに安心感を与えたい気持ちは分かりますが、科学的根拠のない断定的な表現は避け、事実に基づいた誠実な情報提供を心がける必要があります。
2. 比較優良広告-「地域No.1」といった他院との比較表現
比較優良広告とは、他の医療機関と比較して、自院が優れていると示す広告表現を指します。
客観的な事実だとしても、他のクリニックと比較する形での広告は原則として認められていません。
「〇〇市でNo.1のインプラント実績」や「日本有数の専門医が在籍」といった表現は、たとえ調査データがあったとしても比較優良広告に該当します。
ほかにも「当院は最高の医療を提供します」のような最上級の表現や、著名人が通院していることをアピールするような表現も禁止事項です。



他のクリニックより優れている点をアピールしたい場合はどうすれば良いですか?



他院との比較ではなく、広告可能な事項の範囲内で、自院の特徴や設備などを客観的な事実として伝えることが求められます
他院を引き合いに出すのではなく、自院が持つ独自の強みや特色を、事実に基づいて伝えることに注力しましょう。
3. 誇大広告-治療効果を過度に期待させるイラストや実績
誇大広告とは、事実を不当に誇張したり、実際よりも著しく優れていると見せかけたりして、患者さんに誤った期待を抱かせる広告のことです。
事実であったとしても、その見せ方によって患者さんに過度な期待を抱かせる場合は、誇大広告に該当する可能性があります。
例えば、治療を受けると必ず健康で元気になるといったイメージを強調するイラストや、実際には定期的なメンテナンスが必要であるにもかかわらず「1日で全ての治療が完了します」と誤解させるような表現は、誇大広告に当たります。
医師やスタッフの人数を実際より多く見せることも、もちろん違反です。



患者さんに希望を持ってもらうためのイラストも、使用してはいけないのでしょうか?



患者さんに誤った期待を抱かせる可能性のある表現は、たとえイラストであっても誇大広告に該当します
患者さんの期待を煽るのではなく、治療の現実的な効果やプロセスについて、正確かつ冷静な情報を提供することが重要です。
4. 患者の体験談-口コミサイトからの転載やアンケートの掲載
患者さんの体験談は、個人の感想であり、治療内容や効果を保証するものではないため、原則として広告に掲載することは禁止されています。
患者さんを誘引する目的があると判断されるウェブサイトでは、たとえ内容が事実であっても掲載できません。
具体的には、患者さんから寄せられた感謝の手紙やアンケート結果のスキャン画像、Googleマップなどの口コミサイトからのレビュー転載などが該当します。
これらはすべて、患者個人の主観による情報であり、他の患者にも同様の効果があるかのような誤解を与える可能性があるため、禁止事項となっています。



患者さんから頂いた感謝の手紙をウェブサイトに載せるのも違反になりますか?



はい、個人の感想である体験談は、内容や形式を問わず、原則として広告に掲載することはできません。
患者さんからのポジティブな声は貴重ですが、広告での使用はできません。
患者満足度の高さは、質の高い医療と誠実な対応を通じて伝えていくことが本質です。
5. 症例写真-説明が不十分なビフォーアフター写真の使用
治療前後の効果を示す症例写真(ビフォーアフター写真)は、患者さんを誤認させるおそれがあるものとして、原則広告への掲載が禁止されています。
ただし、一定の条件を満たすことで広告が可能になる「限定解除要件」の対象です。
写真の掲載には、治療内容、標準的な費用、治療期間・回数、そして主なリスクや副作用などの詳細な説明を併記することが必須条件です。
これらの説明がない写真の掲載や、治療効果を良く見せるための写真の加工・修正、撮影条件の変更(例:術前は暗く、術後は明るく撮る)は、虚偽・誇大広告に該当します。



症例写真は、治療効果を伝えるのに一番分かりやすい手段だと感じます



限定解除要件で定められた詳細な説明を併記するなど、ルールを厳守すれば掲載は可能です
症例写真は患者さんの理解を助ける有効な手段ですが、掲載ルールは厳格です。
条件を満たせない場合は、掲載を見送る判断が求められます。
6. 未承認の専門医資格-活動実態のない団体による認定など
広告でアピールできる専門医資格は、患者さんの適切な医療選択に資する客観性・中立性が担保されたものに限定されています。
具体的には、厚生労働大臣に届け出を行った学術団体や、日本専門医機構が認定する専門医資格などが該当します。
注意が必要なのは、活動実態が乏しい任意団体が独自に認定しているような資格や、そもそも法律で認められていない専門性を示す名称(例:「インプラント専門医」)を広告に記載することです。
これらは、公的な認定を受けているかのように患者を誤認させるため、虚偽広告や誇大広告と見なされます。



自分が取得した学会の認定医資格は、すべて広告できるわけではないのですか?



はい、広告可能な専門医資格は厚生労働省のウェブサイトで公開されており、リストにない資格は広告できません
ご自身の持つ資格が広告可能なものか、一度厚生労働省のウェブサイトで確認することをおすすめします。
7. 費用の不透明な表示-「初回限定〇円」のみを強調する手法
自由診療の費用に関する表示は、患者さんが治療を受ける前に、必要な費用の総額を把握できるよう、分かりやすく示す必要があります。
一部の費用だけを著しく安く見せるような表示は、誇大広告に該当します。
よくある違反事例が、「インプラント初回限定9,800円」のように、一部の費用だけを大きく目立たせる手法です。
実際には、検査料や手術代、上部構造の費用などが別途かかり、総額では数十万円になるにもかかわらず、小さな文字で注釈を加えるだけでは不十分です。
患者が支払う可能性のある標準的な費用総額を明示しなければなりません。



まずは気軽に試してほしくて、入り口の価格を安く見せたいのですが…



患者さんが最終的に支払う可能性のある費用の総額を、誤解のないように明瞭に示す必要があります
費用に関する透明性は、患者さんとの信頼関係の基盤となります。
誠実な料金体系の提示が、結果的にクリニックの評判を高めることにつながります。
8. 診療科名の誤用-「審美歯科」や「インプラント科」の表記
広告で表示できる診療科名は、医療法によって定められています。
歯科の場合、広告可能なのは「歯科」「小児歯科」「矯正歯科」「歯科口腔外科」の4つのみです。
多くのクリニックで使用されている「審美歯科」や「インプラント科」、「予防歯科」といった名称は、法律で定められた診療科名ではないため、広告に用いることはできません。
これらはあくまで診療内容を示す通称であり、ウェブサイトなどで「〇〇科」として掲げることはガイドライン違反となります。



患者さんにとっては「審美歯科」の方が分かりやすいのに、なぜ使用できないのでしょうか?



法律で定められた診療科名以外は、患者さんの誤認を招くおそれがあるため、広告での使用は認められていません
ウェブサイト内で「インプラント治療」や「審美的な修復治療」といった形で診療内容を説明することは問題ありません。
「診療科名」として表記しないように注意しましょう。
9. 暗示的・間接的な禁止表現-URLやメールアドレスでの表現
ガイドラインで禁止されている表現は、直接的な言葉だけでなく、間接的・暗示的な手法で伝えることも規制の対象となります。
広告全体から受ける印象が、患者さんを誤認させるおそれがあるかどうかが問われます。
例えば、比較優良広告を避けるために、クリニックのウェブサイトのURLを「no1-dental.com」としたり、虚偽広告を避けるためにメールアドレスを「zettai-naoru@clinic.jp」としたりする行為は違反です。
キャッチフレーズや写真、イラスト、絵文字などを用いて間接的に禁止事項を伝えることも、同様に認められません。



URLやメールアドレスの中身までチェックされるとは、思いもよりませんでした



はい、広告全体から受ける印象で判断されるため、間接的な表現も規制の対象となります
ガイドラインの抜け道を探すのではなく、その趣旨を理解し、患者さんに誤解を与えない誠実な情報発信を心がけることが大切です。
自由診療の魅力を伝えるための限定解除要件チェックリスト


自由診療の魅力をウェブサイトで伝えたい場合、広告可能事項の限定を解除する必要があります。
そのためには、厚生労働省が定める4つの要件をすべて満たし、ウェブサイトに明記することが不可欠です。
これらの要件は、患者さんが治療を受けるかどうかを適切に判断するための重要な情報となります。
これから、自由診療の広告に必須となる4つの要件と、その情報を患者さんに分かりやすく伝えるための表示方法について、一つひとつ見ていきましょう。
これらの要件を遵守することは、単なるルール対応ではありません。
患者さんに対して誠実な情報を提供し、クリニックへの信頼を深めてもらうための第一歩です。
要件1-問い合わせ先の明記
限定解除の第一歩は、患者さんが治療内容について気軽に照会できる連絡先をはっきりと示すことです。
これは、クリニックの透明性を示す重要な要素となります。
ウェブサイトには、電話番号やメールアドレスを記載します。
加えて、問い合わせフォームを設置すると、患者さんは時間を選ばずに連絡できるため、より親切な対応といえます。
連絡先は、ウェブサイトのヘッダーやフッターなど、どのページからでもすぐに見つけられる場所に設置することが大切です。



電話番号を載せるだけでは不十分かしら?



はい、メールアドレスや問い合わせフォームなど、複数の連絡手段を用意すると患者さんの利便性が高まります
問い合わせ先をわかりやすく明記する姿勢が、患者さんに安心感を与え、相談しやすい雰囲気を作ります。
要件2-自由診療である旨と標準的な費用の記載
自由診療について広告する際は、公的医療保険が適用されないことと、治療にかかる標準的な費用を明確に記載する必要があります。
費用に関する情報は、患者さんが最も知りたい情報の一つです。
「インプラント1本〇〇円~」といった表記だけでは不十分です。
例えば、インプラント治療であれば、検査・診断から手術、上部構造(人工歯)の装着まで、通常必要とされる一連の治療を含んだ総額の目安を提示することが求められます。
費用の内訳を示すことで、なぜその金額になるのか患者さんの理解が深まります。
| 治療名 | 費用に含まれるもの | 標準的な費用(税込) |
|---|---|---|
| セラミックインレー | カウンセリング、型取り、セラミックインレー装着 | 55,000円~88,000円 |
| オフィスホワイトニング | カウンセリング、施術(2回分)、アフターケア指導 | 33,000円~55,000円 |
| インプラント | 検査・診断、CT撮影、手術、上部構造 | 385,000円~495,000円 |



費用の幅を出すと、高いと思われそうで心配です…



治療内容と費用の内訳を丁寧に説明することで、価格への納得感が高まり、むしろ信頼に繋がります
正直な費用提示は、患者さんの金銭的な不安を取り除き、安心して治療の相談ができる関係性を築きます。
要件3-通常必要とされる治療内容・期間・回数の提示
患者さんが治療の全体像を把握できるよう、「どんな治療を」「どのくらいの期間で」「何回通院するのか」という標準的な計画を示すことが求められます。
治療のゴールが見えることで、患者さんは前向きに治療を検討できます。
例えば、「セラミッククラウン治療の場合、カウンセリングと型取りで1回、装着で1回の合計2回程度の通院となり、期間は約2週間が目安です」のように、具体的な数字を使って説明します。
これにより、患者さんは自身のスケジュールと照らし合わせて治療計画を立てやすくなります。



治療期間には個人差があるので、断定的に書くのが難しいです…



「標準的なケースでは」や「お口の状態により変動します」と注釈を加えた上で、モデルケースを示すと良いでしょう
治療の見通しを事前に伝える心遣いが、患者さんの不安を解消し、治療へのモチベーションを高めることに繋がります。
要件4-主なリスクや副作用に関する情報提供
治療のメリットだけでなく、起こりうる主なリスクや副作用についても誠実に情報を提供することは、医療広告において極めて重要です。
この情報提供が、患者さんとの信頼関係を強固なものにします。
例えば、ホームホワイトニングであれば「知覚過敏が起こることがあります」、インプラント治療であれば「手術後に腫れや痛みが生じる可能性があります。
また、まれに下歯槽神経の麻痺が起こることがあります」など、治療ごとに想定される代表的なリスクや副作用を隠さずに記載する必要があります。



リスク情報を書くと、患者さんが治療をためらってしまうのではないでしょうか?



誠実な情報開示こそが、万が一の誤解やトラブルを防ぎ、最終的に患者さんの信頼を得て選ばれる理由になります
起こりうる事象を事前にきちんと伝えることは、患者さんの自己決定を尊重する姿勢の表れであり、クリニックを守ることにも直結します。
限定解除4要件の分かりやすい表示方法
限定解除の4要件は、ただ記載すれば良いわけではありません。
ウェブサイトを訪れた患者さんが、簡単に見つけて楽に読めるように表示することが大切です。
意図的に文字を小さくしたり、背景色と似た色で記載したりすることはガイドライン違反とみなされる可能性があります。
目安として、スマートフォンで閲覧した際に、指で画面を拡大しなくてもスムーズに読める文字の大きさ(16ピクセル程度)を意識すると良いでしょう。
| 項目 | 良い表示例 | 悪い表示例 |
|---|---|---|
| 文字サイズ | 16px程度で誰でも読みやすい | 8pxなど極端に小さく読めない |
| 文字色 | 背景と対照的ではっきり見える(例:白背景に黒文字) | 背景色に溶け込んで見えにくい(例:薄いグレー背景に白文字) |
| 配置場所 | 自由診療の費用ページなど、関連情報の近く | リンクを何度もクリックしないとたどり着けない場所 |
患者さんの視点に立った、親切で分かりやすい情報提供を心がけることが、クリニックの誠実な姿勢を伝え、信頼獲得に繋がります。
ガイドライン違反時の罰則と継続的な遵守体制の構築


医療広告ガイドラインへの違反は、単なるウェブサイトの修正指示に留まりません。
クリニックの信頼を失墜させ、時には刑事罰にまで至る経営上の大きなリスクを伴います。
そのため、一度限りの見直しではなく、継続的な遵守体制を院内で構築することが不可欠です。
罰則の重さは違反の内容によって段階的に定められています。
どのような流れで処分が進むのか、そして最悪の事態を避けるために何をすべきかを正しく理解しましょう。
罰則を恐れるだけでなく、常に誠実な情報発信を心がける姿勢が、患者さんからの信頼獲得につながります。
行政指導から是正命令までの流れ
行政指導とは、ガイドラインに違反している疑いがある場合に、管轄の保健所などからウェブサイトの表現を修正するよう求められる、罰則の最初の段階を指します。
この指導を無視したり、対応が不十分だったりすると、報告命令や立入検査が行われます。
それでも改善が見られない場合、広告の中止を命じる中止命令や、具体的な改善を求める是正命令といった、より重い行政処分へと発展します。



行政指導って、具体的にどんな連絡が来るのでしょうか?



まずは保健所などからウェブサイトの修正を求める通知が来ることが一般的です
初期段階の行政指導に真摯に対応することが、より深刻な処分を避けるための重要な分かれ道となります。
虚偽広告に科される刑事罰-懲役または罰金の可能性
虚偽広告は、他の違反とは一線を画す、とりわけ悪質な行為と見なされます。
事実と異なる内容や、医学的にあり得ない表現で患者さんを欺くことは、行政処分だけでは済みません。
医療法第88条に基づき「50万円以下の罰金」が科される可能性があり、さらに行政からの中止命令や是正命令に従わない場合は、同法第87条に基づき「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
悪質なケースでは、クリニックの開設許可が取り消される事態もあり得ます。
虚偽広告は、法的な罰則はもちろん、築き上げてきたクリニックの社会的信用を根底から破壊する行為です。
絶対に行わないように、細心の注意を払う必要があります。
定期的なガイドライン改正の確認とウェブサイトの見直し
医療広告ガイドラインは不変のものではありません。
社会情勢や医療技術の変化に合わせて、定期的に改正されます。
例えば、平成30年の改正では、それまで対象外だったウェブサイトが新たに広告規制の対象となりました。
このようにルールは更新されるため、年に1回は厚生労働省の公式発表を確認し、自院のウェブサイトに問題がないか見直すことが求められます。



忙しくて、ガイドラインの改正情報を追いかけるのが大変です…



業界団体のメールマガジン登録や専門家のブログ購読が効率的です
一度作成したウェブサイトを放置せず、定期的にメンテナンスする習慣を持つことが、意図しない違反を防ぐための確実な方法です。
院内でのチェック体制と弁護士など専門家への相談
ガイドラインの遵守は、院長一人の責任ではありません。
ウェブサイトの更新など、情報発信に関わるスタッフ全員が当事者意識を持つことが大切です。
そのためには、院内で広告表現を確認するチェック体制を構築することが有効です。
例えば、ウェブサイトの情報を更新する際には、担当者と院長の2名以上で二重に確認するルールを設けるだけでも、多くの見落としを防げます。



この表現が違反にあたるか、判断に迷うことがあります…



少しでも不安な場合は、必ず専門家に相談してください
「これくらいなら大丈夫だろう」という自己判断が、最も危険です。
表現に迷った際は、医療広告に詳しい弁護士やコンサルタントといった専門家の意見を求めることが、クリニックを守る最善のリスク管理策となります。
よくある質問(FAQ)
- スタッフ個人のSNSアカウントでの発信も広告になりますか?
-
はい、広告と見なされる可能性があります。
クリニック側が内容に関与したり、投稿を依頼したりして、結果的に患者さんの受診を促す(=患者誘引)目的があると判断されれば、医療広告ガイドラインの規制対象となります。
スタッフ個人の自発的な投稿であっても、クリニックのウェブサイトへ誘導するような場合は注意が必要です。
院内でSNS利用のルールを定め、禁止表現がないか確認する体制を整えることをお勧めします。
- 新規患者さん向けのキャンペーン価格の表示は可能ですか?
-
期間限定の割引自体は禁止事項ではありません。
しかし、「今だけ〇〇円!」のように割引後の価格だけを強調し、通常価格や割引の条件が分かりにくい表示は、景品表示法の有利誤認表示や、ガイドラインにおける誇大広告と判断されるおそれがあります。
キャンペーンを行う際は、通常価格、割引が適用される期間や条件などを、患者さんが誤解しないように明確に記載してください。
- Instagramでのビフォーアフター写真の投稿ルールを教えてください。
-
InstagramのようなSNSでビフォーアフターの症例写真を投稿する場合も、ウェブサイトと同様に限定解除要件をすべて満たす必要があります。
つまり、写真のすぐ近くの投稿文に、治療内容、標準的な費用、治療期間・回数、そして主なリスクや副作用といった詳細な情報を記載しなければなりません。
文字数制限を理由にこれらの情報を省略すると、違反事例となりますので注意しましょう。
- ガイドライン違反か判断に迷う場合、どこに相談すれば良いですか?
-
ご自身のクリニックの広告表現について判断に迷う場合は、まず管轄の保健所に問い合わせるのが最も確実です。
あわせて、医療広告に詳しい弁護士やコンサルタントなどの専門家に相談することも有効です。
なお、一般の方がガイドライン違反を見つけた場合、厚生労働省が設ける通報窓口や、各自治体の窓口に情報が寄せられる仕組みになっています。
- 今後、医療広告ガイドラインが改正される可能性はありますか?
-
はい、医療技術の進歩や社会情勢の変化に応じて、医療広告ガイドラインや関連する薬機法などが改正される可能性は十分にあります。
最新の情報を得るためには、定期的に厚生労働省のウェブサイトを確認することが基本です。
信頼できる情報源からのガイドライン解説などを参考に、常に知識を更新し、広告表現を遵守する姿勢が大切になります。
- この記事のチェックリストはダウンロードして使えますか?
-
申し訳ございませんが、現時点でチェックリストのダウンロード用ファイルはご用意しておりません。
お手数ですが、このページを印刷するか、必要な部分をコピーしてご活用ください。
このQ&Aもあわせて、院内での広告作成や確認の際にお役立ていただけますと幸いです。
定期的な見直しが、意図しない罰則を避けるために重要です。
まとめ
この記事では、クリニックのウェブサイト運営で遵守すべき医療広告ガイドラインについて、具体的なチェックリスト形式で解説しました。
特に、良かれと思って掲載した表現が意図せず違反につながりやすい9つの禁止表現(虚偽・比較優良・誇大広告など)の具体例は、すぐに確認すべき最も重要なポイントになります。
- 虚偽・比較優良広告など、ウェブサイトでよくある違反表現
- 症例写真や患者の体験談を掲載するための厳格なルール
- 自由診療を広告する際に必須となる4つの限定解除要件
- 意図しない違反で受ける罰則と行政処分の内容
まずはこの記事のチェックリストを手に取り、ご自身のクリニックのウェブサイトにガイドライン違反のリスクがないか、一つひとつ確認することから始めてみてください。

