歯科医院経営において、人件費の管理は持続的な成長のための最重要課題の一つです。
この記事では、歯科医院の人件費率について、その定義や計算方法、個人経営・医療法人それぞれの適正な目安から、経営状況に合わせた戦略的な考え方までを解説します。

うちの医院の人件費率、適正でしょうか?



人件費率は経営状況を測る重要な指標ですが、数値だけに囚われず戦略的に考えることが大切です
- 歯科医院の人件費率の基本的な計算方法
- 個人・医療法人それぞれの適正な人件費率の目安
- 人件費率を考える上での戦略的なポイント
- 労働分配率との違いと使い分け
歯科医院経営における人件費率の捉え方


歯科医院経営において、人件費をどう捉えるかは非常に重要です。
スタッフは医院の価値を生み出す源泉であり、その費用である人件費の管理は経営の根幹に関わります。
ここでは、経営判断における位置づけや単なるコストではない理由、労働分配率との違い、そして目指すべき経営状況に合わせた最適化について解説していきます。
人件費を多角的に理解し、戦略的な経営判断に活かす視点を持つことが求められます。
経営判断における人件費率の位置づけ
人件費率は、医院の収益に対する人件費の割合を示す経営指標です。
この数値は、医院の収益性を測る上で重要な参考情報となり、経営状態を客観的に把握するために役立ちます。
ただし、人件費率だけで経営の良し悪しを判断するのではなく、売上高、利益率、患者数、キャッシュフローなど他の財務指標や、医院の成長段階、診療内容といった定性的な情報と合わせて総合的に評価する必要があります。



人件費率だけ見ていれば経営状況は分かりますか?



人件費率は重要な指標ですが、それだけで全てを判断するのは危険です。他の財務指標や医院の状況も考慮しましょう
経営判断においては、人件費率を現状分析や将来計画のための一つのツールとして位置づけることが大切です。
単なるコスト削減指標ではない理由
人件費率が高い場合、つい「コスト削減」を考えがちですが、人件費は単なる経費ではありません。
なぜなら、歯科医院の売上は、歯科医師や歯科衛生士、歯科助手といったスタッフの専門性や労働によって生み出される部分が非常に大きいからです。
医療サービスの質はスタッフの質に直結します。
安易な人件費削減、例えば給与カットや人員削減は、サービスの質の低下やスタッフのモチベーションダウンを招き、患者満足度の低下や離職率の増加につながる可能性があります。
結果的に、医院の評判が悪化し、長期的な成長を妨げる要因となることも考えられます。
人件費を医院の成長を支えるための「投資」として捉える視点が、長期的な成功には不可欠です。
労働分配率との違いと使い分け
人件費率と似た指標に労働分配率があります。
労働分配率は、売上高から材料費や歯科技工料などの変動費(仕入原価)を差し引いた「付加価値(限界利益や売上総利益に近い概念)」に対する人件費の割合を示す指標です。
計算式は「労働分配率(%)= 人件費 ÷ 付加価値 × 100」となります。
人件費率は売上全体に対する割合を見るのに対し、労働分配率は医院が生み出した付加価値のうち、どれだけが人件費に分配されているかを示します。
指標 | 計算式 | 意味 | 特徴 |
---|---|---|---|
人件費率 | 人件費 ÷ 売上高 × 100 | 売上高に対する人件費の割合 | 経営全体の効率性を見る指標 |
労働分配率 | 人件費 ÷ 付加価値 × 100 | 生み出した付加価値のうち、人件費に分配された割合 | 原価構造を考慮するため、より実態に近い比較が可能 |
自費診療の割合が高い医院と保険診療中心の医院では、材料費などの原価構造が異なります。
このような医院間で比較を行う場合や、自院が生み出した価値に対する人件費の配分をより正確に見たい場合には、労働分配率の方が適していることがあります。
一方で、経営全体のコスト構造における人件費のインパクトを見るには、人件費率が分かりやすい指標となります。
両者の特徴を理解し、目的に応じて使い分けることが有効です。
目指すべきは経営状況に合わせた最適化
人件費率や労働分配率には一般的な目安(例えば個人診療所の人件費率は15~20%など)が存在しますが、理想的な数値は個々の医院の状況によって異なります。
画一的な目標値を設定し、それを達成することだけを目的とするのは適切ではありません。
例えば、開業から間もない成長段階にある医院では、将来の患者増を見越して先行的にスタッフを採用するため、一時的に人件費率が高くなることもあります。
逆に、最新設備への投資を積極的に行っている医院では、減価償却費などの他の経費が増加し、相対的に人件費率を抑える必要が出てくる場合もあります。
また、自費診療の割合が高い医院と保険診療中心の医院では、スタッフ一人当たりの生産性や求められるスキルが異なるため、目指すべき人件費構造は変わってきます。



うちの医院はまだ開業3年目だけど、人件費率はどれくらいを目指せばいいのでしょうか?



成長段階や診療方針によって最適な数値は変わります。一般的な目安にとらわれず、自院の状況に合わせた目標設定が重要ですよ
目指すべきは、自院の成長ステージ、診療方針、地域性、競合状況などを総合的に踏まえた上で、質の高い医療サービスを提供し、スタッフが意欲を持って働ける環境を維持しつつ、持続可能な経営を実現できる人件費のバランスを見つけることです。
歯科医院の人件費率、適正値と計算方法の基本


歯科医院を経営する上で、人件費率の把握は不可欠です。
ここでは、人件費に含まれる費用の範囲、具体的な計算ステップ、そして経営形態による適正値の目安や最新の業界平均データについて解説します。
自院の現状と比較するための基礎知識を学びましょう。
人件費に含まれる費用の範囲
人件費とは、スタッフに支払う給与や賞与だけを指すものではありません。
社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)の医院負担分や、通勤手当、住宅手当といった各種手当、退職金、さらには研修費用などの福利厚生費も人件費に含まれることを正確に把握する必要があります。
項目 | 内容 |
---|---|
給与・賃金 | 月々の給与、役員報酬 |
賞与 | ボーナス |
法定福利費 | 健康保険料、厚生年金保険料等の医院負担分 |
福利厚生費 | 交通費、住宅手当、研修費用など |
退職金 | 退職給付引当金を含む |



どこまでが人件費に入るのか、意外と知らないかも…



社会保険料の負担分も含めて計算することが大切です
これらの項目を漏れなく集計することで、医院の正確な人件費を算出できます。
人件費率の具体的な計算ステップ
人件費率は、医院の総収入(売上高)に対して、先ほど解説した人件費の総額がどれくらいの割合を占めているかを示す経営指標です。
計算式はシンプルで、「人件費率(%)=(年間の人件費総額 ÷ 年間の総収入)× 100」となります。
例えば、年間の人件費総額が2,000万円、年間の総収入が8,000万円の場合、人件費率は (2,000万円 ÷ 8,000万円) × 100 = 25% と計算できます。
ステップ | 内容 |
---|---|
1 | 年間の人件費総額を集計する |
2 | 年間の総収入(売上高)を確認 |
3 | 上記の計算式に当てはめる |
この計算ステップを踏むことで、自院の人件費の割合を客観的な数値として把握することが可能です。
個人診療所の適正な人件費率の目安
個人経営の歯科診療所の場合、院長先生ご自身の給与は経費(人件費)ではなく、事業主利益として扱われます。
そのため、雇用しているスタッフの人件費のみで計算することになり、一般的に15%から20%程度が適正な人件費率の目安とされています。
この範囲内に収まっていれば、比較的健全な経営状態であると判断できる一つの基準となります。



うちは個人経営だけど、どのくらいを目指せばいいですか?



まずは15〜20%を目安に現状を確認してみましょう
ただし、これはあくまで一般的な目安です。
医院の立地や診療内容、スタッフ構成によって適切な水準は変動するため、この数値を絶対視する必要はありません。
医療法人の適正な人件費率の目安
医療法人の場合、院長先生の給与も役員報酬として人件費に含まれて計算されます。
加えて、社会保険への加入が義務付けられている点や、医院の規模によっては事務長などの管理部門スタッフの人件費も発生する点から、個人診療所よりも人件費率は高くなるのが通常です。
一般的には25%前後が適正な人件費率の目安とされています。
個人診療所との計算上の違いを理解し、自院の経営形態に合わせた目標設定や現状分析を行うことが重要になります。
最新の業界平均データとその背景
歯科業界全体の人件費に関する動向を把握することも、自院の立ち位置を客観的に評価する上で非常に参考になります。
2023年に実施された民間の調査データによると、歯科医院の一人当たり人件費は月額平均348千円で、前年から15千円増加しました。
また、売上総利益(付加価値)に占める人件費の割合を示す労働分配率は57.8%となり、こちらも前年から1.3ポイント増加しています。
調査項目 | 2023年データ | 対前年比 |
---|---|---|
一人当たり人件費 | 34万8千円 | +1万5千円 |
労働分配率 | 57.8% | +1.3ポイント |



最近、スタッフの給料を上げた方がいいのかなって考えてるんだけど…



業界全体で賃上げの動きがあることは認識しておきましょう
この背景には、長引く物価高騰に対応するための賃上げや、歯科衛生士をはじめとする専門職の慢性的な人手不足を解消するための待遇改善の動きがあると分析されています。
こうした業界全体のトレンドも踏まえながら、自院の人件費戦略を検討することが求められます。
人件費率に影響を与える様々な要因


歯科医院の人件費率は、単一の要因だけで決まるものではありません。
医院の経営状況や特徴によって、適正な水準は大きく変動します。
具体的には、開業からの年数や成長段階、診療内容の違い、社会保険加入の有無、勤務医の雇用状況、そして材料費などの変動費率といった要因が複合的に影響を与えます。
これらの要因を理解することが、自院の人件費率を適切に評価し、改善策を検討する上で重要です。
医院の開業からの年数と成長ステージ
医院の経営フェーズ、つまり開業からの経過年数や成長ステージも、人件費率に影響を与える要素です。
特に開業初期や規模拡大を目指す成長期では、スタッフの採用が先行するため、一時的に人件費率が高くなる傾向が見られます。
例えば、ユニット増設に合わせて先行して歯科衛生士を採用した場合などが考えられます。
逆に、経営が安定期に入るとスタッフの入れ替わりも少なくなり、人件費率は落ち着くことが多いです。



開業して3年目だけど、スタッフが増えて人件費率が上がってきた気します…



成長期にはよくあることです。売上が伴ってくれば、徐々に適正な水準に落ち着いてきますよ
医院のライフサイクルに合わせて、人件費率の変動を予測し、計画的な人員配置を行うことが求められます。
保険診療中心か自費診療中心かの違い
提供している診療内容、特に保険診療と自費診療のバランスも人件費率に関わってきます。
自費診療の比率が高い歯科医院では、一人当たりの診療単価が高くなるため、売上に対する人件費の割合は低くなる傾向があります。
一方で、小児歯科専門のように、患者一人あたりにかかる時間やスタッフの手間が多い診療を中心に行っている場合は、スタッフ数を多く確保する必要があり、人件費率が高くなる可能性があります。
自院の診療スタイルが、人件費率にどのような影響を与えているかを分析することが大切です。
社会保険加入の有無による影響
スタッフが加入する社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、法律で加入が義務付けられている場合がありますが、その加入状況によっても人件費率は変動します。
社会保険に加入すると、保険料の約半分を医院が負担する必要があります。
具体的には、スタッフ給与のおよそ15%程度が、法定福利費として追加で人件費に上乗せされる計算です。
社会保険料の医院負担は、人件費率全体を約3%程度上昇させる要因となります。
法人化している歯科医院は加入が必須ですが、個人経営の場合でも加入状況を確認し、人件費への影響を把握しておく必要があります。
勤務医の雇用状況
院長以外に勤務医(常勤・非常勤)を雇用しているかどうかも、人件費を左右する大きな要素です。
当然ながら、勤務医を雇用すれば、その給与や関連費用が発生するため、人件費総額は増加します。
特に、専門医など特定のスキルを持つ歯科医師を雇用する場合は、相応の待遇が必要となり、人件費へのインパクトは大きくなります。



そろそろ勤務医の先生にも来てもらいたいと考えているのですが…



勤務医の先生に支払う給与と、その先生が生み出す売上のバランスを考慮して検討することが重要ですね
勤務医の雇用は、診療体制の強化や院長の負担軽減につながる一方で、人件費への影響も大きいため、慎重な経営判断が求められます。
材料費や技工料などの変動費率
人件費率を考える上では、変動費、特に歯科医院における主要な変動費である材料費や技工料の割合も無視できません。
売上に比例して増減する変動費の割合が高ければ、売上総利益(付加価値)は相対的に小さくなります。
歯科医院の平均的な変動費率は約21%から22%程度ですが、インプラント治療や審美歯科など、自費診療で高価な材料や技工物を使用する割合が高い場合は、変動費率が25%から30%近くになることもあります。
項目 | 説明 | 影響 |
---|---|---|
変動費率 | 売上に対する材料費・技工料などの割合 | 高いと売上総利益が減少し、人件費に回せる割合も減少 |
平均的な水準 | 約21〜22% | |
自費率高い場合 | 約25〜30%になることも | 人件費率の適正水準が変動する可能性 |
人件費率だけでなく、変動費率も考慮に入れた「労働分配率」の視点を持つことが、より正確な経営分析につながります。
人件費率を踏まえた経営戦略の考え方


人件費率は経営状況を把握する指標ですが、その数字だけに囚われるのではなく、医院の成長を見据えた戦略的な視点を持つことが重要です。
これから、適正値に固執しない考え方や売上向上の優先、そしてスタッフを資産と捉える投資の重要性について解説します。
これらの視点を持つことで、人件費を単なるコストではなく、医院の未来を創るための有効な要素として活用できます。
最終的には、数値管理と現場の実態、そして将来のビジョンをバランス良く見据えた経営判断が求められます。
適正値達成だけを目標にしない視点
人件費率の「適正値」は、あくまで一般的な目安であり、自院の状況に合わせて柔軟に捉える必要があります。
例えば、個人診療所の適正値は15~20%、医療法人は25%前後とされますが、この数値を達成すること自体を最終目標にしてしまうと、かえって成長の機会を逃すことになりかねません。
実際に、「人件費率20%を固守して進化した歯科医院はない」と言われることもあるように、成長期においては人材への先行投資として一時的に人件費率が目安を超えることもあります。



適正値ばかり気にしていたけど、それだけじゃダメなんですね…



はい、医院の状況に合わせた柔軟な考え方が大切です
大切なのは、数字の表面だけを見るのではなく、その背景にある医院の成長段階や戦略を考慮することです。
まず検討すべき売上向上の施策
もし自院の人件費率が高いと感じた場合、最初に考えるべきは人件費の削減ではなく、医院全体の売上を向上させる施策です。
安易な人件費削減は、スタッフのモチベーション低下やサービスの質の低下を招き、結果として患者離れにつながるリスクがあります。
売上を伸ばすための具体的な施策としては、以下の3つのようなものが考えられます。
施策例 | 内容 |
---|---|
新規患者獲得 | Webマーケティング強化、紹介キャンペーン |
自費診療率の向上 | 患者への丁寧な説明、カウンセリング強化 |
リコール率の向上 | 定期検診の重要性啓発、予約システム活用 |
これらの施策を通じて売上全体の底上げを図ることで、人件費率が結果的に改善されるという健全なサイクルを目指しましょう。
スタッフは医院の成長を支える資産
歯科医院の経営において、スタッフは単なる人件費というコストではなく、医院の価値を生み出し、成長を支える重要な「資産」です。
歯科医療は、設備や材料だけでなく、歯科医師、歯科衛生士、歯科助手といった「人」の知識、技術、そして患者さんへの対応によって成り立つ労働集約型のビジネスと言えます。
スタッフ一人ひとりのスキルアップやモチベーションの向上が、提供する医療サービスの質を高め、患者満足度、ひいては医院の評判や売上に直結します。



スタッフの頑張りが売上に繋がるのは実感しています



その通りです。だからこそ、スタッフを大切にする視点が欠かせません
スタッフをコストとして管理するだけでなく、医院にとってかけがえのない資産であると捉え、その価値を最大限に引き出すための環境づくりや育成に目を向けることが大切です。
人材確保と定着のための投資の重要性
優秀なスタッフに長く活躍してもらうためには、人材の確保と定着のための適切な「投資」が極めて重要です。
スタッフが不足すると、診療チェアの稼働率が低下し売上が伸び悩むだけでなく、新たな人材の採用には求人広告費や紹介手数料などのコストがかかり、採用後の教育にも時間と費用を要します。
長期的な視点で見れば、スタッフが定着することによる経済的なメリットは大きいのです。
投資の具体例としては、給与水準の見直しや福利厚生の充実、スキルアップ支援などが挙げられます。
投資の具体例 | 内容 |
---|---|
給与・待遇 | 地域の相場や業績を考慮した適切な給与、賞与設定 |
福利厚生 | 社会保険完備、健康診断補助、退職金制度など |
働きやすい環境 | 有給休暇取得促進、残業削減、良好な人間関係 |
スキルアップ支援 | 研修参加費用の補助、院内勉強会の実施 |
これらの投資は、短期的にはコスト増に見えるかもしれませんが、スタッフの満足度向上、離職率低下につながり、結果的に医院の競争力強化と安定経営に貢献します。
長期的な視点での人件費計画
人件費の管理においては、目先の数字にとらわれることなく、医院の将来像を見据えた長期的な視点での計画が求められます。
短期的なコスト削減だけを考えていると、必要な時に人材が確保できなかったり、スタッフの成長機会を奪ってしまったりする可能性があります。
まずは、3年後、5年後に医院をどのような状態にしたいのか(例: ユニット増設、専門分野の強化、分院展開など)という目標を設定することが第一歩です。
そして、その目標達成のために、いつ、どのようなスキルを持った人材が、何人必要になるのかを具体的に計画し、それに基づいた人件費の予算を立てていく必要があります。



将来のことも考えて、計画的に人件費を考えないといけないんですね



はい、場当たり的な対応ではなく、戦略的な計画が大切になります
経営計画全体の中に人件費戦略を明確に位置づけ、採用計画、教育計画、待遇改善などを段階的に実行していくことで、人件費を未来への有効な投資としてコントロールしていくことが可能になります。
よくある質問(FAQ)
- 開業したばかりの歯科医院でも、人件費率は一般的な目安を目指すべきですか?
-
開業初期や成長段階の歯科医院では、将来の患者数増加を見越してスタッフを先行して採用することがあります。
そのため、一時的に人件費率が一般的な目安(個人診療所で15~20%)より高くなることは十分に考えられます。
大切なのは、数字だけに捉われず、医院の成長戦略と照らし合わせて計画的に人件費を管理することです。
売上が安定してくれば、人件費率は自然と適正な範囲に落ち着いていきます。
- 人件費を計算する際に見落としがちな費用はありますか?
-
給与や賞与以外にも、人件費に含めるべき費用があります。
特に見落としがちなのが、健康保険料や厚生年金保険料などの「法定福利費」における医院負担分です。
これはスタッフ給与のおよそ15%程度にもなります。
また、通勤手当や住宅手当、研修費用、退職金引当金などの「福利厚生費」も人件費の内訳に含まれます。
これらを漏れなく計上することで、正確な歯科医院の人件費率を把握できます。
- スタッフのモチベーションのために給与を上げたいのですが、人件費率の悪化が心配です
-
スタッフの給与を引き上げることは、優秀な人材の確保や定着につながる重要な投資と考えられます。
給与水準を検討する際には、地域のスタッフ給与平均なども参考にしつつ、医院の収益状況とバランスを取ることが大切です。
単に人件費が増えることを心配するだけでなく、給与アップがスタッフの意欲向上やスキルアップにつながり、結果として医院全体の生産性向上にどう貢献するか、という視点で検討することが重要になります。
歯科医院の人件費率改善のためにも、人材への投資は長期的に見てプラスになることが多いです。
- 人件費率改善のために「まず売上向上」と言いますが、何から手をつけるべきでしょうか?
-
売上を向上させる方法は様々ですが、まずは自院の現状を正確に分析することが第一歩です。
例えば、新規患者数が伸び悩んでいるのか、キャンセル率が高いのか、自費診療の成約率が低いのかなど、課題を特定します。
その上で、WebサイトやSNSでの情報発信強化による新規患者獲得、丁寧なカウンセリングによる自費診療率の向上、定期健診の重要性を伝えリコール率を上げるといった具体的な収益改善方法の中から、自院の課題に合った優先順位の高い施策から着手するのが効果的です。
場合によっては歯科経営コンサルティングの活用も有効な手段です。
- 人件費以外で、コスト削減のためにすぐに見直せるポイントはありますか?
-
人件費以外のコスト削減策としては、まず変動費の見直しが考えられます。
歯科材料費の仕入れ先や価格交渉を見直したり、歯科技工料の相場を確認し、提携する歯科技工所との連携を最適化したりすることで、コスト削減につながる可能性があります。
また、固定費削減の観点では、テナントであれば家賃交渉の可能性を探る、あるいはリース機器の契約内容を見直すといったことも検討できます。
ただし、コスト削減が医療サービスの質の低下につながらないよう注意が必要です。
- 歯科衛生士と歯科助手の給与設定で、考え方の違いはありますか?
-
はい、歯科衛生士と歯科助手では、求められる専門性や業務範囲が異なるため、給与設定の考え方も違ってきます。
歯科衛生士は国家資格を持つ専門職であり、予防処置や保健指導など専門的な業務を担うため、一般的に歯科助手よりも高い給与水準となります。
一方、歯科助手は診療補助や受付業務などが中心となります。
それぞれの役割や経験、スキル、地域の給与相場などを考慮して、納得感のある給与体系を設計することが、人件費管理の上でも重要です。
また、採用コストも考慮に入れ、長期的に活躍してもらえるような待遇を考える視点も大切になります。
まとめ
この記事では、歯科医院の人件費率について、計算方法から適正値の目安、そして経営戦略における考え方まで解説しました。
人件費率は経営状況を把握する上で重要な指標ですが、単に数値を目標とするのではなく、医院の状況に合わせた戦略的な管理と人材への投資が最も重要です。
- 人件費率は売上に対する人件費の割合、労働分配率は付加価値に対する割合
- 適正値の目安は個人診療所で15~20%、医療法人で25%前後だが状況による
- 人件費率の数値に固執せず、医院の成長段階や方針に合わせた管理
- コスト削減より売上向上や人材への投資を優先する戦略的な視点
まずは自院の人件費率や労働分配率を算出し、この記事で解説した内容を踏まえ、売上向上や人材投資といった視点から今後の経営戦略を具体的に検討しましょう。