歯科医院経営において、変化し続ける診療報酬制度への的確な対応は、安定経営のための最重要課題の一つです。
この記事では、2024年度に続き2025年4月にも施行される歯科診療報酬改定の主要ポイントを解説し、最新の点数情報や歯科医師に求められる経営視点について詳しくご紹介します。

最新の診療報酬改定、しっかり把握しないと経営に影響が出そうだ…



制度の変更点を正確に理解し、治療技術と経営の両面から対応していくことが重要です
- 2025年4月からの歯科診療報酬改定の主な変更点
- 歯科外来・在宅ベースアップ評価料や医療DX関連の最新点数
- 歯科医院経営で診療報酬制度を理解する必要性
- 変化に対応するための歯科医師に必要な経営スキル
治療技術だけではない歯科医師に必要な経営視点


歯科医師にとって治療技術の高さは当然重要ですが、それだけでクリニック経営が安泰する時代ではなくなってきています。
変化し続ける医療環境の中で安定した経営を続けるためには、診療報酬制度の動向を理解し、自院ならではの強みで差別化を図り、効果的なマーケティング活動で患者さんを集め、適切なコスト管理とスタッフ育成を行う経営者の視点が不可欠になります。
高い技術力を活かし、患者さんに選ばれ続けるクリニックであるためには、治療以外の経営スキルを磨く努力が求められています。
変化する歯科医療環境と診療報酬制度
歯科医院を取り巻く環境は、国の政策や社会情勢の変化を受けて常に変動しており、特に診療報酬制度の改定はクリニック経営に直接的な影響を与えます。
例えば、2024年度の改定では、物価高騰や賃上げへの対応として「歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)」が新設され、初診時に10点、再診時に2点が加算されるようになりました。
これはスタッフの待遇改善にもつながる重要な変更点です。
改定のポイント | 内容例 | 経営への影響例 |
---|---|---|
歯科医療従事者の賃上げ | ベースアップ評価料の新設 | 人件費計画の見直し、採用への影響 |
医療DXの推進 | 光学印象や歯科技工士連携加算の評価 | 設備投資、業務フローの変更 |
CAD/CAM冠・エンドクラウンの適用拡大 | 大臼歯への適用拡大、エンドクラウン評価 | 新しい治療オプションの提供 |
在宅歯科医療の評価見直し | 訪問診療料の算定要件変更 | 在宅医療への取り組み方 |
このように、診療報酬制度は常に変化するため、最新情報を把握し、適切に対応していくことが安定経営の基礎となります。
安定経営を実現するための差別化戦略
多くの歯科医院が存在する中で、患者さんに選ばれ続けるためには「他院との違い」を明確にし、独自の価値を提供する差別化戦略が欠かせません。
単に最新の設備を導入するだけでなく、例えば、特定の治療分野(小児歯科、矯正歯科、インプラント治療など)に特化したり、徹底した痛みの少ない治療を追求したりするなど、自院の強みを打ち出すことが重要です。
ある調査では、歯科医院を選ぶ際に重視する点として「医師やスタッフの対応の良さ」を挙げる患者さんが約6割いるというデータもあります。



近隣に新しいクリニックができて、患者さんが減ってきた気がするんだ…



先生のクリニックならではの強みは何でしょうか?それを明確に打ち出すことが大切ですよ
患者さんのニーズを深く理解し、それに応える独自のサービスや専門性を提供することで、価格競争に陥らない安定した経営基盤を築くことができます。
患者獲得につながるマーケティング活動の実際
優れた治療技術や差別化された強みを持っていても、それが患者さんに伝わらなければ意味がありません。
効果的なマーケティング活動によって、クリニックの存在と魅力を知ってもらう必要があります。
具体的には、クリニックのコンセプトや治療方針を分かりやすく伝えるウェブサイトの作成・運用、地域の方向けの健康セミナー開催、既存患者さんとの良好な関係を維持するための定期的な情報提供などが考えられます。
最近では、Googleビジネスプロフィールの情報を充実させ、口コミを集めることも新規患者獲得に繋がります。



ウェブサイトはあるけど、あまり更新できていないし、効果があるのかも分からないな…



まずはターゲットとする患者層を明確にし、その方々に響く情報を発信していくことが第一歩です
オフラインとオンラインの施策を組み合わせ、継続的に情報発信を行うことで、安定した患者獲得につなげることが可能になります。
コスト管理とスタッフ育成の重要性
クリニック経営の安定化には、売上向上だけでなく、歯科材料の在庫管理を最適化したり、エネルギーコストを見直したりするコスト管理と、優秀なスタッフの育成が両輪として機能することが重要です。
同時に、スタッフのスキルアップを支援するための研修制度を設けたり、働きがいのある環境を整えたりすることは、医療サービスの質の向上と定着率の向上に直結し、長期的なクリニックの成長に不可欠です。
例えば、スタッフ一人当たりの年間研修費用を5万円確保するなど、具体的な目標を設定するのも良いでしょう。
項目 | 具体的な取り組み例 | 期待される効果 |
---|---|---|
コスト管理 | 歯科材料の共同購入、LED照明への変更、ペーパーレス化 | 経費削減、利益率向上 |
スタッフ育成 | 外部セミナー参加支援、院内勉強会の実施、資格取得奨励 | 医療の質向上、患者満足度向上、スタッフの定着率向上 |
労務管理 | 明確な評価制度の導入、適切な労働時間管理、福利厚生の充実 | モチベーション向上、離職率低下 |
健全な財務状況を維持し、スタッフ全員がやりがいを持って働ける環境を整えることが、持続可能なクリニック経営の鍵となります。
【2025年度】歯科診療報酬改定の主要ポイントと点数一覧


2025年度の歯科診療報酬改定では、医療従事者の待遇改善と医療のデジタル化推進が特に重要なテーマです。
歯科外来・在宅ベースアップ評価料の新設や医療DX推進体制整備加算の見直しなどが盛り込まれました。
今回の改定における主要な変更点として、歯科外来・在宅ベースアップ評価料の新設とその影響、歯科医療デジタルトランスフォーメーション推進に向けた具体的な評価項目、コンピューター支援設計・製造システムを用いた冠(CAD/CAM冠)やエンドクラウンの適用拡大と点数、そして在宅歯科医療における評価の見直し点が挙げられます。
これらの項目について、以下で詳しく解説します。
改定項目 | 主な内容 |
---|---|
歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ) | 歯科医療従事者の賃上げ支援を目的とした評価料の新設(初診時10点、再診時2点など) |
歯科医療DX推進 | 光学印象(100点/歯)、歯科技工士連携加算(実地50点、情報通信機器利用70点)などの新設 |
CAD/CAM冠・エンドクラウン | CAD/CAM冠の第二大臼歯への適用拡大(条件付き)、エンドクラウンの評価新設(1,450点) |
在宅歯科医療 | 歯科訪問診療1(1人)の20分要件廃止、歯科訪問診療2(2~3人)、3(4~9人)の同一建物患者数区分の見直し |
医療DX推進体制整備加算(2025年4月~) | 従来の3区分から6区分に再編、電子処方箋体制の有無とマイナ保険証利用率に応じた評価(例:加算1 初診時12点) |
口腔機能指導加算・歯科技工士連携加算(2025年4月~) | 口腔機能指導加算(10点→12点)、歯科技工士連携加算1(50点→60点)、同加算2(70点→80点)への引き上げ |
これらの改定内容は、歯科医院の経営や日々の診療に直接的な影響を与えます。
変更点を正確に理解し、院内体制を整備することが求められます。
歯科外来・在宅ベースアップ評価料の新設とその影響
歯科外来・在宅ベースアップ評価料は、歯科医療に従事する方々の賃上げを支援するために、令和6年度診療報酬改定で新設された評価料です。
この評価料の導入は、人材確保や定着にもつながる重要な取り組みとなります。
具体的には、歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)として、初診時に10点、再診時に2点などが算定可能です。
訪問診療の場合も、対象患者の状況に応じて点数が設定されています。
算定区分 | 点数 |
---|---|
歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)初診時 | 10点 |
歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)再診時 | 2点 |
歯科訪問診療時(同一建物居住者以外) | 41点 |
歯科訪問診療時(同一建物居住者) | 10点 |



この評価料はどうすれば算定できるの?



厚生労働省の定める施設基準を満たし、賃上げを実施する計画が必要です
この評価料の算定には、賃上げに関する計画の策定や届出が必要となります。
歯科医院の経営において、スタッフの待遇改善と診療報酬の確保を両立させるための重要な要素です。
歯科医療デジタルトランスフォーメーション推進に向けた具体的な評価項目
歯科医療デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を活用して歯科医療のプロセスを変革し、効率化や質の向上を目指す取り組みを指します。
令和6年度の診療報酬改定では、歯科医療DXを推進するための評価項目が新設されました。
代表的なものとして、口腔内スキャナーを用いた型取りである光学印象が1歯につき100点で評価されるようになりました。
加えて、歯科技工士との連携を評価する歯科技工士連携加算(実地連携で50点、情報通信機器を用いた連携で70点)も導入されました。
評価項目 | 点数 | 備考 |
---|---|---|
光学印象 | 100点 | 1歯につき |
光学印象歯科技工士連携加算 | 50点 | – |
歯科技工士連携加算1(実地) | 50点 | 印象採得に関わる連携 |
歯科技工士連携加算2(情報通信) | 70点 | 印象採得に関わる情報通信機器を利用した連携 |
これらの評価項目は、デジタル機器の導入や活用を後押しするものです。
導入により、患者さんの負担軽減や治療精度の向上、業務効率化が期待できます。
コンピューター支援設計・製造システムを用いた冠(CAD/CAM冠)やエンドクラウンの適用拡大と点数
CAD/CAM冠は、コンピューター上で設計し、セラミックやレジンなどのブロックを削り出して製作する白い被せ物です。
一方、エンドクラウンは、歯の神経(歯髄)を取り除いた歯に対して、歯冠部と根管部を一体的に修復する比較的新しい治療法です。
2024年度の改定では、大臼歯のCAD/CAM冠の適用範囲が拡大され、一定の条件を満たせば第二大臼歯にも保険適用されるようになりました。
これにより、奥歯でも保険で白い歯を選択できるケースが増加します。
また、エンドクラウンも1,200点で新たに保険導入されました。
項目 | 点数 | 備考 |
---|---|---|
CAD/CAM冠 | (部位等により異なる) | 第二大臼歯への適用拡大(条件付き) |
エンドクラウン | 1,200点 | 失活歯に対する歯冠修復 |



CAD/CAM冠の適用が広がると患者さんにはどんなメリットがあるの?



保険適用で白い歯を選べる選択肢が増え、金属アレルギーの心配も減ります
これらの技術革新に対応した保険適用の動きは、患者さんにとって治療の選択肢を広げるものです。
歯科医院側も、新しい技術を取り入れることで、より質の高い医療を提供できます。
在宅歯科医療における評価の見直し点
在宅歯科医療は、通院が困難な患者さんの自宅や施設へ歯科医師や歯科衛生士が訪問して歯科診療を行うもので、高齢化が進む日本においてその重要性は増しています。
質の高い在宅歯科医療を提供しやすくするため、診療報酬上の評価も見直されました。
2024年度の改定では、特に歯科訪問診療料について、訪問先が患者さん1人の場合の「歯科訪問診療1」における20分以上の診療時間要件が廃止されました。
さらに、同一建物に居住する複数人の患者さんを診療する場合の「歯科訪問診療2」(2~3人)および「歯科訪問診療3」(4~9人)に関して、同一建物内の患者数の区分が再編されました。
歯科訪問診療料(20分以上の場合) | 点数 | 対象患者 |
---|---|---|
訪問診療1 | 1,100点 | 1人 |
訪問診療2 | 410点 | 同一建物居住者 2~3人(改定後) |
訪問診療3 | 310点 | 同一建物居住者 4~9人(改定後) |
訪問診療4 | 160点 | 同一建物居住者 10~19人 |
訪問診療5 | 95点 | 同一建物居住者 20人以上 |
※訪問診療1は20分要件が廃止
これらの見直しにより、より柔軟な訪問診療計画が可能となり、効率的かつ質の高い在宅歯科医療の提供体制構築が期待されます。
【2025年4月施行】歯科診療報酬改定の注目点と対応


2025年4月から施行される歯科診療報酬改定では、いくつかの重要な変更点があります。
なかでも、医療DX推進体制整備加算の見直しは、オンライン資格確認システムの導入状況やマイナンバーカードの保険証利用率に直結するため、特に注目すべき項目と言えるでしょう。
この改定には、医療デジタルトランスフォーメーション推進体制整備加算の再編に加え、口腔機能指導加算の引き上げや歯科技工士連携加算の見直しが含まれており、これらの変更点に対応するための院内体制整備が急務となります。
これらの改定に適切に対応することは、今後のクリニック経営において非常に重要になります。
医療デジタルトランスフォーメーション推進体制整備加算の再編と算定要件
医療デジタルトランスフォーメーション推進体制整備加算とは、オンライン資格確認システムの導入や電子処方箋発行、マイナンバーカードの保険証利用促進といった、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するための体制を整備している医療機関を評価する加算です。
2025年4月の改定では、この加算が従来の3区分から6区分に再編され、より細かな評価体系となります。
電子処方箋発行の体制有無と、マイナンバーカードの保険証利用率に応じて点数が変動します。
例えば、電子処方箋体制があり、マイナ保険証利用率が45%以上の場合(加算1)は、初診時に12点が算定できます。
また、マイナンバーカードの保険証利用率に関する基準も、全体的に引き上げられる点に注意が必要です。
加算区分 | 算定要件 (マイナ保険証利用率) | 歯科初診料 (2025年4月~) | 備考 |
---|---|---|---|
加算1 | 45%以上 | 12点 (11点) | 電子処方箋体制あり |
加算2 | 30%以上 | 11点 (10点) | 電子処方箋体制あり |
加算3 | 15%以上 | 10点 (8点) | 電子処方箋体制あり |
加算4 | 45%以上 | 10点 (9点) | 電子処方箋体制なし |
加算5 | 30%以上 | 9点 (8点) | 電子処方箋体制なし |
加算6 | 15%以上 | 8点 (6点) | 電子処方箋体制なし |
※()内は6歳未満の乳幼児または著しく歯科診療が困難な者を診療した場合の点数



具体的な点数や要件はどう変わるの?



区分が細分化され、利用率の基準も厳しくなりますよ
自院の状況を確認し、算定要件を満たせるよう、システム環境の整備や院内での利用促進に向けた取り組みを進めることが不可欠となります。
口腔機能指導加算の引き上げとその意義
口腔機能指導加算とは、歯科衛生士が患者さんの口腔機能(食べる、話す、飲み込むなど)の維持・向上を目的として、個別に行う指導や訓練を評価する加算項目です。
今回の改定では、歯科衛生士実地指導料におけるこの加算が、現行の10点から12点へと引き上げられます。
この引き上げは、高齢化が進む中で口腔機能の維持・向上の重要性が高まっていること、そしてその中心的な役割を担う歯科衛生士の専門性を評価し、予防歯科や口腔管理への取り組みをさらに推進する意図があると考えられます。
項目 | 改定前 | 改定後 (2025年4月~) |
---|---|---|
口腔機能指導加算 | 10点 | 12点 |



この加算引き上げは、クリニックにどんな影響がある?



歯科衛生士さんの活躍を後押しし、予防歯科を強化するチャンスです
この改定を機に、歯科衛生士との連携をより一層強化し、患者さん一人ひとりの状態に合わせた口腔機能指導プログラムを提供していくことが、クリニックの価値向上につながるでしょう。
歯科技工士連携加算の見直し内容
歯科技工士連携加算とは、歯科医師と歯科技工士が密接に連携し、より質の高い歯科技工物(入れ歯や被せ物など)を製作することを評価する加算です。
特に、光学印象(口腔内スキャナー)などのデジタル技術を用いた連携が評価対象となります。
2025年4月からの改定では、この歯科技工士連携加算が引き上げられます。
光学印象を用いた場合の歯科技工士連携加算1(実地での連携)は50点から60点へ、加算2(情報通信機器を利用した連携)は70点から80点へとそれぞれ増点されます。
これは、歯科医療におけるデジタル化の推進と、それに伴う歯科技工の質の向上を後押しするものです。
項目 | 改定前 | 改定後 (2025年4月~) |
---|---|---|
歯科技工士連携加算1(実地) | 50点 | 60点 |
歯科技工士連携加算2(ICT) | 70点 | 80点 |



技工所との連携で、点数が上がるのはありがたいけど、具体的に何が変わるの?



デジタル連携も含め、より質の高い技工物製作への評価が高まります
今後は、口腔内スキャナーなどのデジタル機器を積極的に活用し、歯科技工所とスムーズな情報共有を行う体制を構築することが、質の高い補綴治療を提供し、加算を算定する上で重要になってきます。
改定に対応するための院内体制整備
今回の診療報酬改定にスムーズに対応するためには、計画的な院内体制の整備が欠かせません。
場当たり的な対応では、算定漏れや混乱を招く可能性があります。
具体的には、改定内容に関する正確な情報の収集から始まり、必要に応じてレセプトコンピューターなどのシステム更新や、オンライン資格確認システムの導入・確認を進める必要があります。
さらに、スタッフ全員への情報共有と研修を実施し、新しい算定ルールや業務フローを理解してもらうことが重要です。
特に、医療DX推進体制整備加算のように算定要件が複雑化する項目については、算定漏れを防ぐためのチェック体制を構築することも有効でしょう。
対応すべき項目 | 具体的な内容 |
---|---|
情報収集 | 厚生労働省の通知、関連セミナー、業界誌などの確認 |
システム対応 | レセプトコンピューターのアップデート、オンライン資格確認環境の整備 |
スタッフ教育・研修 | 改定内容の説明会、新しい算定ルールの周知、業務フローの見直し |
院内ルールの整備とチェック体制構築 | 算定要件の確認手順、算定漏れ防止チェックリストの作成など |



日々の診療で手一杯なのに、どうやって体制を整えればいいんだろう…



計画的に、スタッフと協力して進めることが大切です
改定内容を正確に理解し、必要な準備を前もって行うことで、4月からのスムーズな移行と、診療報酬の適切な算定、ひいてはクリニックの安定経営へとつなげていくことが可能です。
歯科診療報酬制度の基礎知識と将来的な動向


歯科医院の経営を安定させるためには、診療報酬制度を正確に理解し、その動向を把握しておくことが不可欠です。
この見出しでは、歯科診療報酬の基本的な仕組みから、歯科医療界が直面する課題、歯科医師に必要なスキルアップ、そして最新情報を得るための具体的な方法について解説します。
制度の基礎を押さえ、将来の変化に対応できる知識を身につけることが、クリニックの持続的な成長と、ひいては歯科医師としての将来性を確かなものにするための第一歩となります。
歯科診療報酬点数の基本的な仕組み(初診料・再診料など)
診療報酬とは、健康保険が適用される保険診療において、医療機関が行った医療行為一つひとつに対して定められた公的な価格のことを指します。
歯科診療報酬は、医科と同様に1点10円として計算され、大きく分けて初診料や再診料などの「基本診療料」と、個別の治療内容に応じた「特掲診療料」から構成されます。
例えば、現在の歯科初診料は264点(2,640円)、歯科再診料は56点(560円)が基本となりますが、患者さんの状態や診療時間、施設基準などによって様々な加算・減算が行われます。
基本的な診療報酬の例 | 点数 | 備考 |
---|---|---|
歯科初診料 | 264点 | 外来環環境体制加算1(+23点)などが加算される場合あり |
歯科再診料 | 56点 | 明細書発行体制等加算(+1点)などが加算される場合あり |
時間外加算(初診・再診) | 85点 | |
休日加算(初診・再診) | 250点 | |
深夜加算(初診・再診) | 480点 | |
歯科訪問診療料1(1人の場合) | 1,100点 | 20分以上の場合 |



基本的な点数は分かったけど、複雑な加算はどうやって計算するの?



点数表や算定ルールが記載された書籍の活用、算定に詳しいスタッフの育成が不可欠です
これらの基本的な点数に加えて、治療内容や使用材料、患者さんの状態に応じた様々な加算項目が存在します。
これらを正確に理解し、漏れなく算定することが、適切な保険請求と医院収益の確保につながるのです。
歯科医療界が直面する課題と今後の展望
現在の歯科医療界は、少子高齢化に伴う疾病構造の変化や、物価・人件費の高騰に対する診療報酬の伸び悩みといった、複数の課題に直面しています。
特に、材料費や人件費は年々上昇傾向にある一方で、診療報酬の改定率は必ずしもその上昇分をカバーしきれておらず、多くの歯科医院で経営が圧迫されています。
2024年度改定ではスタッフの賃上げ対応分を除くと実質0.18%のプラスにとどまり、物価上昇には追いついていない状況が指摘されています。
歯科医療界の主な課題 | 具体的な内容 |
---|---|
診療報酬の伸び悩み | 物価・人件費上昇分をカバーしきれていない基本診療料・技術料 |
人材不足と人件費高騰 | 歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士などの確保難と賃金上昇 |
経営コストの増加 | 歯科材料、医薬品、光熱費などの価格上昇 |
医療DXへの対応 | オンライン資格確認システム導入、電子カルテ、電子処方箋などへの設備投資・体制整備 |
患者ニーズの多様化 | 予防歯科、審美歯科、インプラント、訪問歯科診療などへの対応 |
後継者不足と事業承継問題 | 開業医の高齢化に伴う医院承継の課題 |



経営が厳しくなる一方なのかな…



国の政策動向を踏まえ、予防歯科の強化やDX化による効率化など、新たな収益構造を模索する視点も重要になります
これらの課題に対応するためには、診療報酬改定の内容を的確に把握し、加算要件を満たす体制を整備することはもちろん、コスト削減や生産性向上といった経営努力、さらには保険診療以外の自費診療メニューの充実や、患者さんとのコミュニケーション強化による信頼関係構築など、多角的な取り組みが今後の歯科医院経営には求められます。
技術力と経営能力向上のための具体的なステップ
歯科医師として成功するためには、日々の研鑽による高度な治療技術の習得は当然として、それだけでは十分ではありません。
これからの時代は、クリニックを安定的に運営するためのマーケティングや財務管理、人材育成といった経営能力の向上が不可欠です。
例えば、自費診療の割合を現在の5%から15%に引き上げる、キャンセル率を3%未満に抑える、スタッフの定着率を90%以上にするなど、具体的な目標を設定し、達成に向けた計画を立てて実行することが大切です。
- 最新技術・知識の習得:
- 学会や研修会への定期的な参加
- 専門書籍や論文による学習
- オンラインセミナーの活用
- マーケティング能力の向上:
- 自院の強み・特徴の明確化
- ホームページやSNSを活用した情報発信
- 患者さん向け説明ツールの作成・改善
- 口コミ・紹介を促進する仕組み作り
- 経営管理能力の向上:
- レセプト分析による診療傾向の把握
- コスト管理と削減策の検討
- 資金繰り計画の策定
- 税理士やコンサルタントなど専門家との連携
- コミュニケーション・マネジメント能力の向上:
- 患者さんへの丁寧な説明とカウンセリング技術の習得
- スタッフとの定期的な面談・目標設定
- チーム医療を推進するためのリーダーシップ



治療技術の勉強だけで手一杯なのに、経営まで…



外部セミナーへの参加や、経営に詳しいコンサルタントの活用も有効な手段です
治療技術という「職人の技」と、クリニックを成長させる「経営者の視点」の両方をバランス良く磨き続けることが、変化の激しい時代においても患者さんから選ばれ、地域医療に貢献し続ける歯科医師となるための鍵となるでしょう。
最新情報の継続的な収集方法
診療報酬制度は、医療政策や社会情勢の変化を反映して、通常2年ごとに大きな改定が行われるほか、必要に応じて細かな見直しが随時実施されます。
そのため、常にアンテナを張り、最新情報を継続的に収集し続けることが、適切な保険請求と安定した医院経営を行う上で極めて重要です。
厚生労働省や地方厚生局から発表される告示や通知、疑義解釈(Q&A)を確実に確認することは基本ですが、それ以外にも所属する歯科医師会からの情報提供や、歯科専門誌の記事、信頼できる医療系ウェブサイト、関連メーカーやディーラーが主催するセミナーなど、複数の情報源から多角的に情報を得ることが推奨されます。
- 公的機関からの情報:
- 厚生労働省のウェブサイト(報道発表資料、通知など)
- 地方厚生(支)局のウェブサイト
- 社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険団体連合会
- 所属団体からの情報:
- 日本歯科医師会、都道府県歯科医師会、地区歯科医師会
- 専門メディア:
- 歯科専門誌(月刊誌、季刊誌など)
- 医療系ニュースサイト、メールマガジン
- セミナー・研修会:
- 歯科医師会主催の保険講習会
- 歯科関連企業主催のセミナー(オンライン含む)
- コンサルティング会社主催の経営セミナー
- その他:
- 診療報酬点数表に関する書籍、早見表
- レセプトコンピューターのソフトウェア更新情報



忙しくてなかなか情報収集の時間が取れないんだよな…



信頼できる情報源をいくつか絞り込み、定期的にチェックする習慣をつけるなど、効率的に収集する仕組みを作りましょう
特に診療報酬改定の時期には、多くの情報が錯綜することもあります。
複数の情報源を確認し、正確な情報を基に、院内での対応方針を決定し、スタッフ全員に周知徹底することが求められます。
最新情報への迅速かつ的確な対応が、制度変更に伴うリスクを最小限に抑え、法令遵守に基づいた適切な医院運営を可能にするのです。
よくある質問(FAQ)
- 歯科診療報酬点数の一覧や早見表はどこで見られますか? また、点数計算はどうすればよいですか?
-
厚生労働省のウェブサイトや、市販されている歯科診療報酬点数表の書籍で確認できます。
最近では、点数計算をサポートするアプリも登場しています。
正確な計算には専門知識が必要ですので、医療事務スタッフと連携するか、算定ルールを解説した手引きを参照することをおすすめします。
- 2024年(令和6年)の歯科診療報酬改定の主な変更点やポイントを知りたいのですが、どこで学べますか?
-
厚生労働省の発表資料を確認するのが基本となります。
また、歯科医師会や関連企業が開催する診療報酬改定セミナーに参加したり、解説記事を読んだりするのも有効です。
今回の改定では、医療DX推進や従事者の賃上げに関する項目が注目されています。
- 新しい治療を導入する際、診療報酬の算定要件やルールが複雑で分かりにくいです。どうやって確認すればよいですか?
-
まずは厚生労働省から出される通知や疑義解釈(Q&A)を確認することが重要です。
算定のための手引きや、歯科医師会が提供する情報も役立ちます。
不明な点は、地方厚生局に問い合わせることも検討しましょう。
算定ルールを正しく理解することが、適切な保険請求につながります。
- 歯科衛生士が行う歯周病の検査や指導管理料について、今回の改定で変更はありましたか?
-
2025年4月の改定では、歯科衛生士が行う「口腔機能指導加算」が10点から12点に引き上げられる予定です。
これは、予防歯科や口腔管理における歯科衛生士の役割がより重視されていることを示します。
歯周病関連の検査や指導管理料全般についても、改定ごとに見直しが入ることがあるため、常に最新情報を確認してください。
- CAD/CAM冠(白い被せ物)の適用範囲が広がったと聞きました。金属のクラウンやブリッジ、義歯、インプラントの点数とはどう違いますか?
-
はい、2024年度改定でCAD/CAM冠の適用範囲が第二大臼歯まで拡大されました(条件あり)。
保険適用のクラウンやブリッジ、義歯の点数は、使用する材料(金属の種類など)や設計によって細かく定められています。
インプラント治療は基本的に自由診療(保険適用外)となります。
歯科技工に関連する診療報酬は、技術の進歩とともに変化するため、注意が必要です。
- 診療報酬改定への対応も大変ですが、それ以外に歯科医院の経営を安定させるために必要なことはありますか?
-
診療報酬制度への理解と対応はもちろん重要ですが、それだけでは不十分な場合があります。
これからの歯科医師には、高い治療技術力に加え、自院の強みを活かした差別化戦略や、患者さんに選ばれるための集患マーケティング、そしてスタッフ育成を含む歯科経営の能力も求められます。
技術力と経営力の両方を磨く努力を続けましょう。
まとめ
歯科診療報酬制度は、医療DX推進や従事者の待遇改善を目指し、2024年・2025年と継続的に改定されています。
特に最新の改定内容を正確に把握し、自院の経営戦略に反映させることが、今後のクリニック運営において極めて重要です。
この記事のポイントは以下の通りです。
この記事のポイント
- 医療DX推進や従事者の賃上げを目的とした近年の診療報酬改定
- 2025年4月からの医療DX推進体制整備加算再編と各種加算引き上げ
- 最新動向への対応と、差別化・マーケティングなど経営能力向上の必要性
- 継続的な情報収集と、変化に対応するための院内体制整備
診療報酬改定という外部環境の変化に対応しつつ、高い技術力と経営能力を磨き続けることで、患者さんから選ばれ、地域医療に貢献できる歯科医院を目指しましょう。